第1回アジア産学ワークショップ '96 報告書(1997年7月)


<概要>

「産業技術等に関する国際交流委員会」は、アジアでの産学協働の推進に寄与するため、初のアジア産学ワークショップを、平成9年3月24日、アカデミーヒルズにて開催した。アジア近隣諸国7カ国から9名、日本側から11名の産学代表が出席、さらに傍聴人17名の参加を得て、多様性に富むアジア各国の人材育成分野で抱える問題、産学協働の現状と課題について率直な意見交換が行われた。

東京大学の吉川総長が開会の挨拶を行った。その中で、米ソによる東西二大陣営という国際社会の構造が崩壊した今、人類社会は目指すべき方向をはっきり見い出せないでいる。そのような中で、状況を知的に理解し、複雑で困難な状況に対応できる人材―知的人材―を育成することが大学の目的である。アジア諸国間では、産業面、技術面に比べて教育面での協力が未だ希少であるが、今後そのような人材育成において、アジア諸国がどう協力しあえるのか、理解を深めたい、と第1回アジア産学ワークショップ開催の主旨を述べた。

セッション1「人材育成に関する学界の意見」では、参加国の学界代表から各国における人材育成の現状と課題、産学協働に関する現状と課題、そして留学生問題について情報を交換した。中国清華大学のグアン・チチェン副学長は、熾烈な競争が予想される21世紀において人材育成が重要であるという点を指摘。具体策として高等教育の開発の推進、産業界との協力の拡大を挙げた。清華大学の実例として、外国企業を含む産業界との協力委員会の設置、エンジニアリング・リサーチセンターによる技術移転、継続教育の効果について紹介があった。

バンドン工科大学のリチャード.メンコ所長は、大学がどのようなサービスを社会に提供しているのか、というテーマで発表。コンサルタントという形、研究所における研究開発の形、そして教育研修という形での協力が社会との間に考えられると述べた。産業界のニーズと学界の研究テーマの間にあるギャップを埋める実例として“Link & Match Program”を紹介した。このプログラムの中で、大学は教育活動の一環としての研究活動、産業界ニーズに応える形での人材育成を期待されている。さらに起業家養成プログラムを紹介した。

日本側代表の軽部征夫・東京大学教授は産学協働に関するBUF分科会が行った企業トップに対するインタビュー結果を紹介しながら、日本の大学が置かれている状況、産業界ニーズに応えるための努力を明かにした。

ソウル国立大学のヨン−ダル・チョ教育学部副学部長は、「人材開発における韓国の高等教育機関の考察」というテーマで発表を行った。具体的には、人材開発とは何か、韓国の高等教育の現状、将来の方向性を考える上でのキャッチアップ戦略について述べた。人材開発を人間の専門知識の育成と開放と定義し、1960年以降の韓国の人材開発を、高等教育の拡大、高等教育機関の専門化、大卒者増加による労働市場での受給ギャップの発生という3段階で捉えた。大学改革の障害として、確固たるヒエラルキーがあるために多様化が困難である、財政が不足している、政府のコントロールがある、を挙げた。将来への方向性として、産学協働、リサーチパーク、民間による奨学金を提案した。

フィリピン大学のレイナルド・ベア工学部長は、フィリピンにおける高等教育の現状、留学生問題、産学協働の将来像と障害について発表した。現状として教育機関の数が多いわりに質が高くなく、不完全就業が多いという問題を挙げた。対策として再編成による高等教育機関の向上、教育プログラムの認証、Center of Excellenceの設立が紹介された。留学生問題では、まず資金的に留学は難しいこと、言葉の壁を乗り越えて最近日本への留学生が増えていること、問題としては、異なる学校制度を採用している外国で勉強した人のディプロマとの整合性がないという点が指摘された。産学協働では、官のウエイトが高い例として大統領府の補佐役としての科学技術調整協議会の機能を紹介、さらに生涯教育、テクノロジーパーク、製造面でのLINKプログラム、教職員や学生を対象としたインターンシップ、準教授プログラムなどを紹介した。

また、ASEANの大学とヨーロッパの大学の共同研究、アジア内でのJICAの協力を得た高等教育機関ネットワークの構築に向けた動きを紹介し、産学協働が将来はこのようなネットワークの要となるだろうと期待した。

台湾の国立清華大学、ウェイ−チュン・ワング教授は、「台湾における人材作りと産学協働についての現状と課題」というテーマで発表した。まず、大学でも専門学校でも学位を取得できるシステムがあること、しかし、最近は大学進学者が増えたために、文部省は6つの専門学校がそれぞれ大学になる認可を与えたことを紹介した。留学生問題では帰国後の就職難が問題で、高い学位を得た後でも台湾に留まる学生が増えていると指摘した。問題として、職業学校卒業後、就職しないで大学に進学する学生が増えているため労働市場での受給ギャップが発生している、世の中の変化が早くてそれに追い付くだけの技術と管理能力を有する人材が不足している、などを挙げた。産学協働の障害としては、産学間のニーズのギャップ、とくに産業界の98%を占める中小、零細企業が即戦力を望む現実とのギャップ、さらに政府による大学に対する過剰な援助のために産業界から支援を獲得しようという動機が働かない、大学側に産学協働の専任窓口がないことを指摘した。解決策としては、高等教育システムの再構築、各国の教育システム間での密接なコミュニケーションの増加、産学協働を推進するメカニズムを設計し実行する、を提案した。

最後にタイのチュラロンコン大学、ナロン・ユーサノム工学部長は、「タイにおける人材開発と産学協働」というテーマで発表した。タイには100を超える大学があり、高等および職業専門学校を担当する初等教育省、大学高等教育機関を担当する大学問題関連省のふたつが行政機関として存在する事情を説明。現在の問題として深刻なエンジニア不足を指摘した。対策として既存大学の拡充大学の設立による学生数の増大を挙げた。将来に向けての人材育成上の課題は、技術変化に質と量の両面で対応しなければならないこと、人材開発を初等教育、中等教育まで拡大させなければならないこと、技術訓練が重要であることの三つを挙げた。

セッション2「人材育成に関する産業界の意見」では、冒頭、座長の笠見東芝常務取締役が、グローバル時代になって、より広い広がりを持った人間、人と人とのネットワーキングができる人材の必要性が高まっていること、そのためには、より多くのディスカッションと、産学間の人的交流が大切であると指摘した。

各国代表による発表では、まず、インドネシア代表のスビルマン氏が所属するPTテレコムニカシ・インドネシアが高等教育機関との間で人材育成において、どういう協力を行ってきたか紹介。具体的には学術的な教育プログラム、教育プログラムの充実・改善、教育機関の財政的支援などである。特に協調的教育プログラムであるCo-opプログラムの説明、多段階に設定した社内教育プログラムを紹介した。

続くマレーシア代表でPNB人材開発ゼネラル・マネージャーのニック・ムスタファ・ニック・モハメド氏は産学協働の現状、PNBによる実例、産学協働の障害と将来の方向性について発表した。人材育成の要素として、現在の仕事に対する準備である「訓練」、資格を得るための「教育」、世の中の変化、組織の変化に対応できる人材を育成する「開発」の三つを指摘。マレーシアの高等教育機関は「教育」については合格しているが、「訓練」「開発」については完璧とは言い難いとした。職業訓練サービスを提供する会社もあるが質の面で疑問である一方で、高等教育機関の間でMBAコース創設に対する関心が高まっていることを紹介した。高等教育機関との協力の実例として、PNBとマラヤ工科大学で提携した投資分析コースを紹介した。産学協働のこれからとしては、人材の量以上に質の確保が大切であると指摘した。

フィリピンのエドガルド・ペイノール氏は、ベア工学部長の発表で触れたフィリピン大学と製造業とのLINKプログラム(UPMLP)を具体的に紹介した。同プログラムには約15社が参加、学生に対して各社工場を訪問してもらい、製造現場、製造プロセスを実際に体験してもらっている。さらにUPMLPのもとでの日本の海外技術者研修協会(AOTS)との協力、多国籍企業との提携プログラムであるDGPPSTパートナーシップ、半導体エレクトロニクス業界団体SEFIとフィリピン工科大学(PUP)との提携プログラムが順次紹介された。最後に、大学とエレクトロニクス業界とのインフォーマルな交流の場としてエレクトロニクスカピハンに触れ、前述のSEFI、PUPとの協力がエレクトロニクスカピハンから生まれた経緯を明かにした。

最後に東京ガスの片岡最高顧問から、日本の産業界が教育、人材育成で学界とどうかかわっているか、アジア諸国との連携、日本企業の役割について発表があった。具体的には、科学技術分野において産業界から高等教育機関へ多額の資金援助がなされ、その成果を産業界が享受していること、日本企業のアジア進出により技術移転が進み、アジア近隣諸国も間接的に日本の産学協働の恩恵に浴していることを明かにした。また、アジアへの進出した企業が現地でOJT教育、もしくは日本への招聘研修等を通じて人材育成を行っているという事実を指摘。今後アジア諸国の高等教育機関への資金、技術、人材の提供により交流が進展すると予想した。

セッション3は、第1セッション、第2セッションでの発表と討議を受けて、「アジア地域における国際的な産学協働のあり方」というテーマで議論が進んだ。冒頭、座長の猪口孝・国連大学上席副学長が国際的産学協働の分野における背景として、日進月歩の技術革新、経済活動のグローバル化と相互依存の深化、政府規制の緩和と税収基盤の縮小という構造変化を指摘した。さらに国際的産学協働の枠組みの指導原則として、柔軟性、堅固な意志と覚悟、創造性を提案し、参加者の討議の叩き台とした。

討議の結果、指導原則として柔軟性、実務性、創造性、決意、知識の共有、協働、機敏さ、戦略的目標で合意を得た。制度的枠組みについては、まず安上がりな意見交換手段である電子メールの活用で意見調整を図り、出席者もしくは出席国それぞれの負担で会議を持つ、という方向で合意を得た。


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