第1回日米加共同産学ワークショップ '96 報告書(1997年3月)

「ハイパフォーマンス・ワークプレイス&ワークス」


<概要>

「日本産学フォーラム(旧称:産業技術等に関する国際交流委員会)」(BUF:Business-University Forum of Japan)、米国のBHEF(Business-Higher Education Forum)、カナダのCHEF (Corporate Higher Educational Fourm)の共催による初の日米加共同産学ワークショップが、1996年10月31日から11月1日にかけて、東京のホテル・オークラならびに慶応大学湘南藤沢キャンパスにおいて開催された。内外の産業界および学界、官界のリーダー200人が参加し、変化が著しい情報化社会における人材育成のありかたについて、活発な議論がなされた。

第1回ワークショップのホスト国産学フォーラムであるBUFを代表して平岩外四、BUF代表世話人が開会の挨拶を行なった後、伊藤正男、日本学術会議会長が基調講演を行なった。

伊藤氏は「大学が産業のためにできること」「産業界は大学に何をしてきたか」という問題提起から講演を始めた。卒業生を企業に供給する大学の貢献は、育てた人材を企業が受け取るという従来の「一方向性」の関係から、企業が大学に供給して欲しい人材につき具体的な要求を提示する「双方向性」の関係に変化していることを指摘した。後者については、多大の寄付を挙げた。その上で、寄付講座、委託研究、共同研究という産学協働が未だ活発ではない、との指摘を行なった。大学は基礎研究、企業は応用研究というふうに、アカデミック・インタレストと「実用上重要性」とが完全に別れてしまう構造を指摘した。そこで、伊藤氏は基礎研究と応用研究の中間に置く戦略研究という概念が、産学関係再構築の鍵になり得ると期待する。研究に必要な時間(時定数)も産学で大きく異なるが、この戦略研究の概念を持ってくれば、両者の妥協点が見いだせる。併せて日本の場合、欧米に比べて、政府研究機関と大学研究機関との連係が弱い点を日本の問題の原因のひとつとして示した。

午餐会では、能楽師観世流シテ方で梅若会理事長の梅若六郎氏が「時代を超える能」というテーマで、600年に及ぶ能の歴史を、その誕生から現代に至るまで鳥瞰。抽象芸術としての能を説明した。さらに能に限らず、日本の文化を海外に伝達できる人材の育成、協力を強調した。

第一セッションでは「知識社会での企業が求める人材と人材育成における産学協働の課題」というテーマで、これから必要とされる人材像につき、産業界代表が大学に要望を提出した。まず秋元氏から、BUFが行なった調査を踏まえた具体的要望が紹介された。急激に進む情報化社会、経済のグローバリゼーションといった変化に大学は、産業界ほど迅速には対応できていない、という産業界のいらだちが明らかになった。熊野氏は日本の教育を取り囲む内外の環境が、戦後50年経過し急速に、かつ複雑に変化した点を指摘。大学の大衆化、高齢化社会の到来といった事情に鑑み、日本の教育制度の抜本的見直しの必要性を強調した。スズキ学長からは、職場が大学に求めるものが変わってきている、文化の壁を超え、学際的で迅速な対応ができる人材を要求している、という指摘がなされた。ロカ氏は、同社の採用基準として、「言語力、数学的理解力といった一般的認識能力」「設計、会計といった専門分野の能力」「コミュニケーション能力を中心とするライフスキル」という三つを紹介した。ワグナー氏は、大学はアイデアについて、企業はお金についてしかリスクを負えない、という点を指摘した。その上で両者が辛抱強く会話を続ける必要性を強調した。

ディスカッションでは、フレーザー学長がCHEFの調査結果を紹介。大学生に企業が最も期待する能力は問題定義力、分析力、解決能力などのクリティカル・シンキングであると語った。さらにコミュニケーション能力を強調。西島氏は日本の大学に必要なものとして多様性を指摘。ネーゲル所長は、ただ産学が集まって問題を討議するだけでは何も変えることはできず、実際の行動につなげることが大事であるという盲点を指摘した。フレーザー氏が産業界代表を入れた大学の諮問委員会設立を提案、それに対して、バザーギー学長が効果的と経験を紹介。伊藤委員からは、産業界で同様な委員会を組織するときは是非学界代表を入れてくれるよう要望した。ロカ氏はさらに、課外活動の重要性を指摘した。

第二セッションは「人材育成における産学協働に大学はどう取り組めるのか〜可能性と限界〜」というテーマで、大学側からの見方が提示された。大谷学長は同大学が推進中の全学的リベラルアーツ教育を紹介しつつ、人間尊重の精神に根ざした人間教育が地球規模の環境問題などに欠かせないと強調した。軽部氏からは大学側の産学協働に対する具体的な取り組みを紹介、大学側でも共同研究センター設立といった努力がなされていることを紹介した。特に大学の大衆化、少子化の中で、大学も多様性が生き残りの鍵となるであろう、との予測が提示された。パーカー会長は、自社パーカー・ハニフィンが全世界で事業を展開するなかで、人材の確保、育成についてどのような努力をしているか紹介し、産業界のニーズを明らかにした。これに対し、BHEFのユーリング事務局長は、同フォーラムが実施した大学への調査の結果を紹介した。意外にも大学の学長はカリキュラムについて何ら権限を持っていないと考えていること、標準的なリベラルアーツというものは今やアメリカに存在しないこと、またリベラルアーツの教授ほど産業界に対する理解が乏しいこと、大学が卒業生に対して、自らが産業界ニーズにどれだけ応えているか、問わないことなどを紹介した。

スズキ学長は、大学の使命はあくまでも長期的に学生の人生を豊かに技能を与えることであり、企業の短期的ニーズに偏り過ぎる昨今の産学の関係を憂慮した。同時に、カリフォルニア州立工科大学ポモナ校の産学協働プロジェクトを紹介した。また、バザーギー学長もモントリオール工科大学、及びカナダの工科大学における産学協働の具体例を紹介した。

第三セッションは、「新たな時代への協働に向けて産学の溝は埋めることができるのか」というテーマで議論が展開された。

伊佐山氏から、通商産業省の視点、具体的な政策事例が報告された。戦後のキャッチアップ型の時代は終わり、産官学がそれぞれの目標をそれぞれのやり方で追及できた時代も終わった、これからは三者の協調が必要となる。その時、従来よりも産業、学界によるイニシアティブのウェイトが大きくなっているために、政府の役割はハード、ソフトのインフラ整備となる旨、発表があった。具体的な政策例として、日本の若者をEU企業でトレーニングしてもらう「バルカヌス計画」が紹介された。

雨宮氏は、現在進行中の大学改革について発表があった。多様化、高度化する学術研究にどう応えるか、社会に開かれた大学という三つの変化が紹介された。

青江氏からは、研究現場の活性化のために産学協働が大きな役割を果たすということが強調された。

三井氏は、産業界ニーズとして従来の先端技術、先端産業を超える新しい産業技術を確立を挙げた。そのために大学に対して産業界に埋もれているテーマを発掘して欲しい、という要望がある。しかし産業界も大学と一緒になってやっていく必要があると強調した。

稲葉氏からは、大学に無目的な真理の探求を求めるとともに、産学協働による革新的な技術研究の推進、学生の基本的資質の強化が必要であるとしたうえで、産学協働の溝を埋めるために、大学と企業が一緒に歩いていける環境や条件をどう整えるかが重要であるとした。

ライキンス学長は、複数の学部の教授チームが、複数の学部の生徒からなるクラスに対して行なうリーハイ大学の「統合的学習経験」というアプローチを紹介。フィッシャー氏は、多様性、多様な文化を扱える能力を重視する同社の姿勢を強調した。またアジアにおいて技術教育の素晴らしさを認める一方で、それ以外に何もない、という欠点を指摘した。

スブリエール氏は、我々が脱資本主義社会に生きると前置きしたうえで、情報産業におけるプロダクト・サイクルの速さ、それについていくための「コースウエア」というSHLシステムハウス・インターナショナル社の社員教育システムを紹介した。

フレーザー学長は、研究集約型大学と民間の潜在的相乗効果が経済発展の大きなエンジンになる、という前提で話を進めた。リサーチパークを例として、知的所有権を定める法律、新しいアイデアの商品化までの大学によるコミットメントなどの諸点が重要と指摘した。

パネルディスカッションに入り、深田氏から80年代以降のアメリカの教育制度上の変化につき質問があり、ライキンス学長、スズキ学長からある程度のの改善があったという返答がなされた。黒田氏は溝が何を意味するかにより、それが埋められるかどうか決まるという指摘が、小原氏からは溝は認識の差であって、埋めることは可能という見解が示された。その中で徳育と知育の両方が必要という指摘があった。後藤氏も地球環境の保全が世界に通用する価値観であると述べ、大学にそれに応えうる人材の育成を求めた。

ゴールズワージィ・オーストラリア産学フォーラム会長は、オーストラリアが抱える問題を紹介。画一化に向かおうとしている現状を憂えた。学生に問題解決能力を付けさせるために、意識や財源の改革が大学側に求められていると強調した。

吉川総長は、知識を修得することと、その利用という目的との関係が、大学、学生、企業で非対称になっている。これがギャップの根本原因のひとつであるという指摘がなされた。教育を価値観というビークルに乗せて行なうというモデルを提示した。三者の違いをうまく表に出し、教育方法に対する影響を見極めれば、協力体制を作り上げていけるのではないか、という結論が出された。

最後にストラングウェイ学長から、「リベラルアーツか専門か」「広さが深さか」というパラドックスが提示され、現代はその両方とも必要であると指摘した。さらに、国際的側面と地域的側面の両方が深く関連しているという指摘もなされた。

第一日目の議論の後、懇親会が行なわれ、中川秀直・科学技術庁長官から、日米加がともに力を重ね、新しい人類の未来を切り開いていく技術の創造、新しい産業の創造が達成できるように、科学技術庁も努力する決意であるという挨拶がなされた。

11月1日は慶応大学湘南藤沢キャンパスに舞台を移し、午前中のキャンパス・ツアーの後、「高度情報化社会のける人材育成〜産官学の協働を求めて」というテーマで、相磯教授のコーディネートのもと、シンポジウムが行なわれた。ネーゲル・アイアコッカ研究所所長から“Agile Leaders and Leadership”というタイトルで講演が行なわれた。この中で、同氏は“Agile Leaders”の資質として、人々に考える動機を与える、目標を設定する、必要な情報を共有できる、の3点を挙げた。“Leadership”では独創性と敏捷性、扇動者、勇気と自信、道徳/倫理の高さ、仕事以外での充実した人生を挙げた。

生駒氏は自己の体験を通して、産学協同が新しいフェーズに入ったことを指摘、また棟上氏は近年、産官学の三者協力への認識が高まっており、今後、ソフトウェア分野の技術開発に対する助成措置、法規制を含む制度上の問題の解決に向けた各方面の協力が必要となる旨強調した。

引き続き、パネル討論では、産官学の協働と大学教育/研究のあり方について活発な議論が行なわれた。同大学院在学中の大谷氏、嶋津氏からは自己の経験に基づく意見が出された。


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