国際産学ワークショップ
第4セッション 分科会B
「科学技術の社会受容性と学力低下問題」
セッション紹介
セッション概要
 知識経済を支える科学技術の進歩の恩恵を正しく享受するためには、社会が科学技術を理解し適切に活用していかなくてはならない。このためには、社会としての科学技術に対する絶え間ない学習が求められ、そうしたことを迅速に理解する基本的な能力の習得が個人および社会体制として不可欠である。
 ここでは、学生の学力低下を含め、知識経済下での科学技術理解をどう進めていけばよいのかを議論する。
座長・話題提供者
    氏名・役職
座長

チャールス・チャンバー
ローレンス技術大学 学長

Charles M. Chambers
President and CEO,
Laurence Technological University

話題提供者

木村 孟
大学評価・学位授与機構 機構長

Tsutomu Kimura
President,
National Institution for Academic Degrees

ノーマン・ニューライター
米国国務省 科学技術顧問

Norman P. Neureiter
Science and Technology Advisor to the Secretary,
U.S. Department of State

黒田 玲子
東京大学大学院 教授

Reiko Kuroda
Professor,The University of Tokyo

コメンテーター

リチャード・ジョンソン
アーノルド&ポーター法律事務所
パートナー

Richard Johnson
Partner, Arnold & Porter

猪口 孝
東京大学東洋文化研究所 教授

Takashi Inoguchi
Professor,
Institute of Oriental Culture, the University of Tokyo

議論内容・配付資料

 チャールス・チャンバーズ氏(ローレンス技術大学学長)の座長の下、この分科会は、科学技術の社会的な受容性について議論した。最初にチャンバーズ氏が、イギリスの学者C・P・スノウが、そもそも世の中には「人文」という文化と「自然科学」という二つの分野が存在し、この両者の橋渡しが必要であると。また、そうしなければ科学技術に対する社会の理解は得られないと主張した、というエピソードを提供した。

 最初に、木村孟大学評価・学位授与機構機構長から、日本における若い人の科学技術に対する認識、興味に関する調査結果についての報告があった。「科学とは何なのか」「どう理解しているのか」などについて聞いた結果であるが、それによると科学に対する関心は他の国と比べて相対的に低い、ということであった。また、日本の子どもたちが科学、理科、算数にかける勉強時間は、教室外では一番少ないということ。さらには、普段の授業でエネルギーを使い切ってしまっていて学校が終わるともうやる気が起こらないためか、もうこれ以上は理科や算数に時間をかけたくない、という子どもが少なくないとのことであった。しかし木村氏は、科学技術に対しては、今後はもっと焦点を向けるべきであって、日本の児童、生徒、そして学生も理工系をもっと勉強して欲しい、という期待を表明した。

 また、東京工業大学の中に、「講義をした後に、実験室で実験をしてその理論の有用性を試す」という従来のやり方とは逆の順序で行った先生がいて、それが非常に効果があったと報告した。「最初に、学生に実験をやってもらう。自分の手を使って、実験をやることの楽しさを味わせる。そこで好奇心をかき立てると、自らの実験に対する興味が湧いていき、これまで以上に講義から得るものも多くなっていく」という。一般に、科学に対する期待や評価というものは高いので、こうした科学に対する興味や関心を高めていくアプローチや工夫が欠かせない、と言った。

 次に、米国国務省科学技術顧問であるノーマン・ニューライター氏は、教員に対する研修、養成についての重要性について述べた。まずは、先生が規範となって率先垂範し、生徒たちに理科や算数、理工系の楽しさを教え、興味をかき立てる必要があると。

 一方、アメリカでは、公立の先生たちに対して、科学教育をするだけの十分な基礎が与えられていない、という指摘がニューライター氏からあった。さらに、先生の給与水準も不十分であるとのこと。そもそも先生とは、科学技術に対する若い人の興味を維持し、高めるために重要な役割を果たしているのにも関わらず、それに報いるようなシステムや報酬となっていない。これを解決すべく、全米科学団体では様々な資源を注ぎ込み、若い先生たちに理工系の十分な知識と関心を持ってもらい、その技能を高める取り組みを行っていると報告した。

 電気機器、携帯電話、テレビ、自動車などといった馴染みのある機器に適用されている場合、社会は科学を意識し、称賛する。しかしながら、人々の心の底深くに不信の念があるならば、これが科学に対する拒否となって現れる。米国では毎年1120億ドルが科学に支出されているが、この配分の優先順位は9月11日以降、国家安全分野に大きくシフトしてきている。他方、厳しくなった国家安全保障のために、海外からの留学生や研究者の米国滞在ビザの獲得が難しくなっている。現在、米国における科学技術分野の大学院生の50%以上が外国からの学生であり、こうした学生が米国の研究活動を支えていることをアメリカ人は分かっていない。社会から拒否された例として遺伝子組み替え食品と幹細胞が、誤解が招いた例として炭疽菌に汚染された手紙のケースが紹介された。

 つまり、アメリカでは科学が実際に生み出している成果と、それに対する国民の見方や期待の間には相当なギャップが存在している。これは、他の様々な分野にも飛び火している。例えば、遺伝子組換え食品、それをめぐる貿易問題等々。事実、EUでは科学的な根拠がはっきりしているにもかかわらず、国民がその成果を受け入れず、いかなるリスクも認められないという姿勢が強まっていると報告した。理念的な問題も起こってきている。科学者として、はっきりとした根拠に基づいていなければ「こうである」と結論めいた言い方で発表してはならないと。そうでないと、誤解を招くかも知れないからである。その結果、科学のバックグラウンドのない人が、科学に対する信頼を失ってしまうという危険性をニューライター氏は警告した。

 最後の話題提供者である黒田玲子東京大学大学院教授は、一般社会が科学に対する認識を高める必要性について言及した。これは何も学生が、全員完璧な科学の分析力を身に付けるという意味ではなく、基本的な「原則」を知っておくべきだという。実際、科学というものは期待値と確率が基礎にあり、色々な状況の中で的を絞った成果がはっきりと出ることもあるが、一般的な確率とか統計の原則を理解していないと結果が出て、データが示されてもそれを正しく理解できない、ということがあると述べた。

 そのためには、若い人が先々どういう分野に進むにしても、大学に入学する前にまず、科学や理科について、よく触れる機会を与えるべきである、と指摘した。実際問題、大学に入ってからでは遅いので、科学の美しさ、素晴らしさを大学に入る前に知っておく必要があるという。こうした黒田氏のアプローチは、科学者や教育に関わる人たちが参考意見として取り入れるべきものであると思われる。黒田氏の提案は、そうすることによって、知的な好奇心を若い人たちの間に育んでいき、関心に火を点すこともできる。将来、どういう道に進もうとも、科学について考える楽しみを知っておこう、というものであった。

 ディスカサントとして東京大学教授の猪口孝氏は、ニューライター氏が前に指摘した教師の質に関する素晴らしい事例を報告した。猪口氏は自らの幼少時の経験を話した。長い時間をかけて蝶の羽の収集を行い、先生に見せたところ、極めて単純に「よくやったね」と言っただけで、子どもながらに非常に失望したという。収集に努力をしたのは、科学の世界に興味をもったからであり、子どものそうした期待に反して、先生は科学との関係付けを持たせる機会を利用できなかったのである。猪口氏はまた、一般の人々の科学の理解に対し影響力をもつメディアの記者そのものが科学を理解することが科学にとって重要であるとも指摘した。アーノルド・ポーター法律事務所のパートナーであるリチャード・ジョンソン氏は9月11日以降、研究と教育に対するアプローチが変わったとし、科学技術分野での女性の数の増加をどうして実現すればよいかの議論もまた、必要であるとした。熊本大学学長の阜ウ達郎氏は学生のやる気や積極性についての問題を指摘し、人生や大学教育に関する先生と学生の間での緊密な議論を求めた。木村氏は学生の興味を刺激するためには実験や手を使うことが重要であると指摘した。キム氏の人類と科学技術との関係についての質問に対し、ニューライター氏は科学だけで人類の紛争を解決させることはできないので、社会科学がその解決策を見つけるべきであると述べた。科学技術は我々の社会の進歩に寄与したのか否かというジョンソン氏の最後の質問に対し、ニューライター氏は科学技術と公共政策の関係は今後、調査分析しなければならない重要なテーマであるとした。

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